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ばね仕掛けの玩具のようにレンは飛び起きた。
「ハァ、ハァ......」
レンの荒い息遣いとは対称的に、カーテンが揺れる度にベットの上で陽の光が踊る。
腕を持ち上げてみれば、包帯で丁寧に巻かれた両腕があらわになった。
無論、血痕など、どこにも無い。
(ゆ、夢──)
レンは瞼の裏から離れないケルーヤの姿を振り払うように、首を振る。
──彼女はもういない。
「起きたか」
目を上げると、見知らぬ赤い外套を着た男が壁に寄り掛かるようにして立っていた。
部内の者に違いないが、この男に見覚えはない。
訝しげな視線を送ったレンだったが、その男の肩の階級を見るなり、慌てて姿勢を正す。
「楽にしなさい」
「──申し訳ありません」
この男は、狩人の総司令の右腕と呼ばれるバルサンド・アルトレー。
(噂に聞いていたが──かなり若い)
バルサンドの容姿は30歳くらいか。その黒髪に白髪は混じることなく、背中で綺麗に編み上げられている。
異例の早さで、古参を差し置いて昇任し、次の総司令候補とも言われているバルサンド。
普段は、総司令部にしか姿を見せないような人間。
天と地のような存在の彼はレンのような下級者と会うような身分ではない。
そんな彼が何故──。
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