序章)血に染まる

6/8
前へ
/42ページ
次へ
その日の任務は郊外の森林において、第10級クラスのウォルファー一体を狩ることだった。 特級から10級まであるクラスの中でも、最低ランクの人狼(ウォルファー)を屠る事など、レンとケルーヤのバディにとっては造作も無い。 ましてや、一体など。 視界も良く、三日月の美しい夜だった。 柱のように差す青白い月光を縫うようにして、はるか前方を疾駆する目標(ターゲット)の男。 その進行方向は、街に向かっていた。 目標(ターゲット)を街へ逃がしてしまえば、再びの発見が困難になり、更には被害の拡大が予想される。 「逃がさないわ!!」 ケルーヤは矢筒から素早く一本の矢を抜き取り、膝をつき構える。 「ハァッ!!」 気合いと共に放たれた矢は鋭い軌跡を描き目標(ターゲット)の首を掠る。 『うおオォアァアアッ!!!!』 即効性の毒矢を受けて、首を掻きむしり、転倒し地面に転がる目標(ターゲット)。 ケルーヤは素早く間を詰め新たに矢を背中から抜き取る。 『人間風情がアァ......』 グルル、と上体を起こすと目標(ターゲット)は身を震わせ、姿を変えていく。 (“変身”する......!) 身体は前のめりに曲がり、全身が急激に膨張し、衣を破き、毛むくじゃらの四肢が現れる。 顔は醜く歪み、目は金色に開かれ、ケルーヤを見据えた。 そこにいるのは、紛れも無い“狼”。 醜く顔を歪め、牙を剥き出し、ケルーヤに向かって反撃にかかる。 『クソがぁああぁ!!!!』 脅威の回復力と免疫を持つ目標(ウォルファー)は、ダメージを受けても毒では死ぬことはないという。 ケルーヤは怯むことなく二本の矢を番えると、素早く放った。 ヒュンッ、と空を切り裂き矢は人狼(ウォルファー)の両腿に深々と突き刺さる。 しかし、目標(ウォルファー)の勢いは衰えること無く、鉤爪がケルーヤの首に伸びた。 ドシュッ 噴き出す鮮血、真紅に染まる景色。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加