神無 ―カンナ―

31/31
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 でも違うのだ。決定権は人間が持っている。人間の気持ち一つで、神も亜神もどうにでもなってしまう。何一つ保障されていないのだ。今更ながら、それを思い知った。  突然、信号と呼ばれるものが青に変わった。周囲の人間たちが一斉に歩き出す。鳴り響く靴音。時折聞こえる歓声。肩を叩き合って浮かれる若者たち。同じような集団が向こう側から来て交わる。周囲を笑顔で囲まれる。争いごとを感じさせない人間たちの笑み。しかし、今はその笑顔が信じられない。裏に隠された仮面を想像してしまう。  燿も一つ頷いて、その一歩目を踏み出した。  人間の真意を見極めるのだ。どうするのが神、人間、そして亜神にとってもっとも良いことなのかを見つけてみせる。  大きな決意を胸に、燿は人間の街の喧騒の中に消えて行った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!