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数刻ののち──
ユリアン軍はイラクサ峠の頂の更に上、眼下にウルカン関の灯りを見下ろせる位置に居た。
今は両軍休んでいるのか、歩哨の姿は見えるものの、張り詰めた静けさを保っている。
すでに夜明けが近く、明けの明星の瞬きも確認できる。遠く東の空、山の稜線辺りが白み始めてはいるが、まだまだ辺りは闇の中だ。
ユリアン軍は二手に別れて居る。
護民兵とイシュルト部隊のみをユリアンとクラトが率い関の東側に集め、残りのマール公騎士団をオウルスが率いて西側に陣取っていた。
ナヴァール軍がしずしずとウルカン関に入るのが、両方の軍の眼下に見える。
ユリアン達奇襲部隊はウルカンに到着する少し前から松明を吹き消し、馬から降りて山道を登って山林の中に身を潜めたが、ナヴァール軍にはわざとそのまま蹄を鳴らし、煌々と明かりを灯したまま入関させた。
敵方からも物見が放たれウルカンの援軍到着を確認しているだろう。
しかし駆け付けた援軍がナヴァール軍二個中隊だけと知れば油断を生む筈だ。恐らく翌朝悠々と総攻撃に出て来るに違いない。
その油断を突く作戦だった。
「敵軍はユルグ門から僅かばかり後方に下がった辺り、目の前に陣取っています」
旅団員の報告を受けてクラトはユリアンとシュアンに向かって口を開いた。もちろん彼女の側にはサイールも居る。
「どうやら予測通りに事は運んでますね。ここから少々無茶をしますが、用意はいいですか?」
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