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深夜もとうに過ぎ、蒸し暑い夜気の中で汗ばむ体に準軽装鎧を纏った軍隊がリヨンの丘に整列した。
この時期に重装備をさせてしまってはいかに兵の体力があっても消耗は避けられぬ。
それに今回は防衛戦とはいえ、ただ守ればよいと言うものではない。
敵の正体を暴き、目的を探り出す為にも相手指揮官ないし準ずる者を捕縛せねばならぬ。
どうあっても出戦が必要だが真っ当に当たっては消耗戦は必至。それを避けるためにクラトは機動力を重視して奇襲をする心づもりだった。
一番良いのはユルガン連山を迂回して背後を突く方法だが、あいにく兵馬が越える事の出来る山道まで南下すると、最低でも4日はかかる。
しかし主街道を通れば明け方近くには到着出来るのだ。
クラトは何よりも速さを重んじた。
「これより我らはウルカン関の救出作戦に向かう。援軍がある事は敵方も承知の上だろう。我らはその予測を速さにおいて一刻でも上回らなくてはならぬ!!」
クラトの言葉に兵士らがおう!と応える。
副団長とおぼしき騎士が、一呼吸おいてクラトの言葉を継いだ。
「しかし、その前に一つだけ皆に伝える事がある。今回の作戦を指揮するのは、この度新しく着任されたマルリオン軍指令のユリアン様だ。非礼の無いよう、熱心に務めよ!」
マール公騎士団の副団長から武人らしい野太い声で皆に紹介されたユリアンは、一歩前に進んで皆に軽く手を上げ会釈した。
そのまま促されて一言挨拶する。
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