戦いの序幕

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ユリアンは軽く唇を舐めてから口を開いた。   「えーっと…は、初めまして。ユリアンと言います。このたびマルリオン軍指令に任命されたので宜しくお願いします……」    しどろもどろなユリアンの卑屈とも取れる挨拶に、皆白けた目を向け失笑している。   慌てたクラトが後ろから囁くように「もう少し堂々と」と耳打ちしたが、そばにいた将兵にも聞こえたらしくドッと笑いが起きた。   しかしユリアンは悪びれた様子もなく、逆に緊張がほどけたような笑顔を皆に向けてもう一度口を開いた。   「やっぱりこういう挨拶は苦手だな。父上にも堅苦しいのはお前には似合わんと笑われたよ。みんな、僕の気持ちを聞いてくれる?実は僕は戦争は嫌いなんだ」   笑い声はおさまったものの戦に発つ前に鼓舞するでなく、否定的な発言に静かなざわめきが広がったが、ユリアンは構わず続ける。   「戦では沢山の大切なものが失われる。だけど行かなければウルカンでも大切な命が失われ続けるのも事実だ。だから、僕らは行かなくちゃいけない。でも……あなた方一人一人も大切なんだよ」  な黙ってユリアンを注視している。それへ微笑みかけながら、一息胸に吸い込んで声を上げた。   「だからみんなで、生きて帰ってこよう!」     おおおうっ!!   ユリアンが言葉を切ると、予想に反して兵士らの歓声が沸き起こった。   皆が大事な家族を思い出し、何が何でも生きて帰ってくるぞという意気込みに満ちた瞳をしている。   クラトは安堵の溜め息をつくと同時にユリアンへ敬意を込めて敬礼をした。
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