第三話 ポルフレクサンの波止場

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 派遣法が改正され派遣社員は上限三年雇用とされたので、晴香は会社から正社員になるか三年後に契約終了になるかの選択を迫られた。正社員になってしまえば楽だ。また三年後に就職活動をやらなくても済む。けれど晴香は、災害時に一目散に自分たちだけ安全地に逃げたこの会社の社員になるのだけは嫌だった。自分の会社や社員を守ることは当たり前だし、それは構わない。けれど、その中に自分が埋もれてしまうことに晴香は怖れを覚え、嫌気が差したのだ。  覚悟はしていたが、面接にたどり着くのだけでも時間がかかり、今日の面接は会社を辞めてから三度目だった。  面接はひたすら和やかな雰囲気で自分では上手くいったと思うのだが、前回の面接も同じような感じだったので、期待を持つのが怖い。晴香は電車のドア越しに立ち、今にも泣き出しそうな空を見上げた。  このまま家に返って安ワインを一本空けても自己嫌悪に陥り、不眠と二日酔いに悩まされそうな気がする。そう考えた晴香は、いつも下りる駅の二つ前で電車を下りた。前に友人と下りた駅で、気になる店があった。今度一人で来ても入りやすそうなカジュアルなバーを見つけたのだ。窓が多く適度に人が入っている様子が伺えた。外に出ていたメニューもチェックしてあった。カクテル一つ見ても手頃な値段だった。  改札を出ると、案の定雨が降ってきた。駅と並列しているコンビニに入り、ビニール傘を買う。そして、バーのある道を歩き出した。 「あれ?」  店の窓を、さりげなく通り過ぎるときに覗くと店内は灯りが点っているが曇っていてよく見渡せない。入るか否か迷っていると雨足がどんどん激しくなってきた。コンクリートを叩きつける雨に「一杯だけ飲んで帰ろう」と決心してドアに手を掛けた。その途端、首の後ろ、うなじの辺りが電気がピリッと走ったように痛んだ。 「ツッ」 「どうしました?」  首を押さえて佇んでいると、後ろから声が掛かった。振り向くと黒い傘に黒い薄手のコートを着た若い男が立っていた。
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