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第一話 乗車拒否2
「そういえば腹が減ったな」
空太が小さい声で呟くと、その声を聞きつけたのか、年配の男と話しをしていた敬一郎が急いでこちらに歩いてきた。
「クウタ、ごめんな。今話してて…飲むだろ、ワイン」
そう言って持ってきた空のワイングラスを空太に渡した。
「もちろん。ただ、始めに言ったけど、蘊蓄はいらないからな。俺は赤であればいいんだから」
分かってる、と言って敬一郎は苦笑し、空太のグラスに傍にあった赤ワインを注いでくれた。カチリとグラスを二人で合わせて一口飲むと、空太はあたりを見回した。
「みんなワイン好きの人たち?」
小さな声で訊くと、敬一郎は頷いた。
「それぞれ職業は全然違うんだけどね」
「すごく立派な家だね」
「ここはイベント会場なんだよ。誰か住んでるわけじゃないんだ」
敬一郎とはスポーツバーで知り合った。そこに行けば数人の知り合いがいて、その都度色々なヤツと適当な話をしながら、サッカーやラグビーをテレビ観戦していたが、ある土砂降りの晩にF1を見に来ていたのが空太と敬一郎だけだった。そして話をするうちに二人ともワインが好きだということが分かり、敬一郎は自分が主催するワインの試飲会に空太を誘ったのだ。
けれど、こんな明かりの少ない場所でのワインの試飲会なんてあるのだろうか。空太は少し違和感を感じた。知り合って三か月ほどの男の誘いに乗るのは、今の時代、不用心と言われることかもしれない。
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