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第二話 版画の館
逸見川望海は、雨の止んだ空を見上げ、人気の無い美術館の入り口に立っていた。受付の女性は望海に気づいていると思うが、礼儀なのかあまりこちらを無遠慮に見たりはしなかった。人がいないということは考えようによっては美術館を独り占めできるのだし、物を売りつけられることもないだろうから、そんなに遠慮する必要はないだろう。そう言い聞かせ、望海は飛沫を払って傘を畳み、自動ドアの前に立った。
受付の女性が伏し目がちにこちらに顔を向ける。
「あの…」
望海が入館料がいくらなのか訊こうとすると、女性は口を開いた。
「二階の右側の部屋は有料になります。左側は一般の方の展示で、無料となっております」
女性は望海の顔をあまり見ようとしない。感じが悪いというよりも、どこか陰気な雰囲気だった。
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