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敦子は、ひとりで食事をつくり洗濯をして、高校にいった。
そして、敦子のそばには、いつもそれがいた。
おかっぱ頭に紺色の着物を着た子供。じっと敦子を見つめていた。
そして、ときどきそれはささやいた。
「あーちゃん。だいすき」
祖母は、心配して電話をかけてくれた。
「無理しないでいいから、いっしょに住もう」と、いってくれた。
でも、敦子は、どうしてもその言葉にうなずくことができなかった。
うなずくと、何かが崩れてしまうような気がしていた。
いつも「だいじょうぶ。ありがとう」と、いってしまうのだった。
食事を終えて机にむかって勉強している時も、それはそばにたっていた。
ふいに敦子は、それに目を向けた。
それは、無表情で敦子をみつめている。
「あなたがくれる幸せって、なに?」
敦子はそれに話しかけた。
「あーちゃん。だいすき」
ただ、それは同じ言葉をささやくのだった。
「こんなことになって。ひとりになって。あなたは幸せをくれるの」
「あーちゃん。だいすき」
「あなたがいる家は。幸せになるんでしょう」
「あーちゃん。だいすき」
「わたし。わかんないよ」
敦子は、ただシャーペンを握りしめることしかできなかった。
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