暑気払い

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暑気払い

 まだ五月になったばりだっていうのに、何だこの蒸し暑さは。  暑すぎて眠れない。だが、クーラーが必要な時期まで放置のつもりだったエアコンは、手入れも何もしてないし、そもそもリモコンをどこへやったかという状態だ。  扇風機も同様で、簡単には用意ができない。  仕方ないから、隣の部屋にあった団扇を持って来た。  真夏じゃないし、少し扇げば涼しくなって、その内に寝られるだろう。  思惑通り、二、三分扇いでいたらたまらない蒸し暑さを感じなくなった。その先は緩やかに睡魔が降りて来て、意識が眠りに引き込まれた。  でも、暑さはそれで終わりじゃなかった。  どれくらい寝られたのかは判らない。だけど暑すぎて目が覚めてしまったのは事実だ。  ともかく暑い。寝苦しい。もう一度団扇を…そう思った瞬間、そよそよと優しい風が吹いてきた。  軽く団扇を仰いだ時特有の、撫でるような優しい風。心地よさに意識が和らぐ。でも、和んでいる場合じゃない。  独り暮らしの家で、勝手に団扇が動いている。…誰かが俺を扇いでくれている。 「あの、ありがとうございます。もう、充分です」  精一杯の勇気でそう口走ると、快い微風は止まった。  どこのどなたか存じませんが、背筋がすっかり冷え切って、もう、団扇の風すら必要ないくらい、暑さは微塵も感じません。  だから感謝してますありがとう。  ただ…眠気も一緒に吹っ飛んで、多分もう、今夜は眠れないだろう。 暑気払い…完
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