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王女の頭を撫でるなど、側近の侍女でも憚るほどの畏れ多い行為であったが、ハンナは見なかった事にした。 「それで、今御者に指示しているのが妹のユリアーナ。館の事は誰より詳しいから協力し合ってやってね」 「はい、エリカ様」 会釈をするとエルフリーデは早足で馬車の前に回った。 「でさ、ハンナ」  「はい」 「そこにいるのがマーヤ」 エリカが隠れるように後方にいたマーヤを手招いた。 ハンナはこの亜麻色の髪を持つ幼い顔つきの少女を見て、身の回りの世話のために雇われたばかりの村娘かなと思った。 「マーヤ、こちらはハンナ、私が伯爵になった時に陛下からいただいた侍女よ」 「では私と同じですね、はじめまして」 同じ? 同じって何? 「ハンナ、マーヤは陛下が私につけてくれた護衛よ」 「は?」 「詳しくはあとで。私達がここにいては邪魔になるから、行きましょ」  エリカがハンナとマーヤを伴って居間に戻ると、ハロルドが剣を佩き外へ出ようとしていたところであった。 「エリカ、ちょっと弩を見て来るよ」 「はい、お願いしますわ」  実の兄であるハロルドは王国の第3王子であり、敵にこちらの劣勢を悟らせないよう王子が援軍を引き連れて到着していると見せかけている。 実際にここにいるのは全てエリカの兵であるが、見せかけ上は領主であるレオナルドの軍勢が主力で王子軍が増援という形をとっている。 貴族が複数いる場合、慣例では上位の貴族は指揮を執ることはあっても自分より下位になる領主の指示には従わないし、予備に甘んじることもないので最前線に王子の姿があることは自然なことなのである。 「報告します」 エリカが席に着く前に走り込んできた歩兵隊の伝令が息を整えることなく一気に報告した。 「歩兵隊準備完了、なお、鹿柴の位置に各村の男達が武器を持って集まってきております」 「男達?」 「はっ、それぞれが目通りを願っております」 村長達がこちらについて戦うという選択をしたのであろうか・・・否 それであれば目通りを願うのは村長でなければおかしい。 おそらく村は敵側に恭順を申し入れ、その見返りとして村民をこちらの懐深く入れさせて中で争乱を起こし、あわよくばレオナルドかハロルドの首を取る。 戦闘前にやる小細工としてはありきたりであるが、そんなところであろう。 ただ、男達が村長に造反して来たという可能性も捨てきれない。
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