第二章

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「前田くんって……部活入ってないよね?なんでここにいるの?」 鈴がなるような透き通る優しい声。 髪の毛を耳にかける小さな仕草も見惚れる。 「あっ……や、時雨くん……を待ってて。」 「え、時雨くん?彼は君と同じ帰宅部だよね?」 首をこてんと傾げて不思議そうな顔をする五月さん。 というかなんで学園一の美少女、みんなのヒロイン五月美玲さんが俺の一平民生徒を覚えているのだろう? なぜ部活が帰宅部だと知っているのだろうか? ま、まさか富岡時雨! あのイケメソ男のそばにいるだけで認知度が上がるのか!? や、やべぇな。 時雨くんのそばにいたら俺芸能人になれるんじゃね? 「そ、そうですけど。」 「……なんでこんな時間まで待ってるの?」 五月さん声が少し重くなった。 「え?」 「もう五時じゃん、何時間待ってるの?」 五月さんは綺麗な顔を無表情にして俺に向き合って話してくれる。 じっと目を見つめられて、なんだか恥ずかしいウブ男は視線を逸らしてしまう。 「に、二時間。いや、一時間半……かな」 少しテンパった。 なんか俺、どもりすぎ…… コミュ障だと思われてしまう! コミュ障だが。 「……普通帰らない?」 普通、帰る……もんなんだけど。 うん、まぁ帰るわな……でも、 「約束したから……」 五月さんは一瞬だけ驚き、目を細めて薄らと笑った。 その姿にぞくりとなにか悪寒のようなものを感じる。 「ふぅん。前田くん、 損する生き物だね。」 「え?」 「約束ってなんであるんだと思う?」 「……えっ?えっと、守るため?」 「破るためだよ」 俺は頭のなかがクエスチョンマークでいっぱいになる 言っている意味がわからない。 約束は破るため? なにか矛盾している。 というか矛盾している。 「違った。ごめん、前田くんにとっては違うんだよね説明不足だったよ。 ごめんごめん…… やくそくって嘘つきと正直者にとっての解釈は変わるんだよ。 嘘つきはその場しのぎに約束をするの。 ばれたときはまた別に嘘の約束をするの。 なんのためだというとね。 裏切るため。自分の保身のため。 約束っていう便利な一言はひどく便利で信憑性があるからこそ 信じさせる要因になるの。 ひっどいでしょ?」
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