第一章

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しーーん……と沈黙が続いた。 ぴたり、と体を硬直させた時雨くんは静かに黙って俯いた。 き、聞いてはいけなかったことだったのだろうか。 誰しもナイーブなところはあるだろう。 でも少し気になったのだ。   時雨くんは頭もいいし、運動神経もいい。 時雨くんはなんでもできる才能を持った天才で 中学の頃は美術部に所属していたのだ。 少し以外だったが、時雨くんはなんでもできるから絵だってとってもうまかった。 周りには人がたくさんいて、そのなかで一人絵を真剣にかいていた。 俺は帰宅部だったから一緒に帰ることはできなかったけれど、ポスターとかで時雨くんの作品を見るのが楽しみだったのだ。 けど、 高校にはいってからは部活に入らず俺と同じ帰宅部になっていた。  だからたまに一緒に帰れる。 たまにというか毎度一緒に帰る約束しておいて女の子と帰ってしまうのだが、 「だって、飽きるんだもん。」 ぽつり、としゃべった時雨くん。 俺は時雨くんの顔を見た。 なんでもない。無表情。 つまんなそうな無表情。 「飽きる……?」 「俺、一度は興味持てるけど熱が早く冷めちゃうから」 冷たそうな青い瞳に見つめられる。 俺は思わず反らした。 「だから帰る女子が毎度変わるのか。」 ごまかすようにそう言って、頭をかく。 「それはあんま関係ない。」 「……そう。」 「すぐできちゃうんだもん。つまんねーの、なんの」 「……そう。」 まぁ、つまらないんだろうか? なんでもすぐできてしまうのはやりがいがないからつまらないのだろうか? やれるからこそ楽しいのかと思っていた。 俺は努力しないとなんにもできないから こういう気持ちがわからない。 うまく返事ができない。 ただただ羨ましいとしか思えない。 「興味を持ちたいんだけど、頭から離れないものがずっとあるんだ。」 なんだか、寂しそうな声だった。 頭から離れないものとはなんだろうか。 「なに。頭から離れないものって。」 「悟には教えない。」 しー、と人差し指を口許においた。 「な、なんだよ……俺限定かよ。」 俺は重いため息をついた。 「そーだよ。悟限定。」 時雨くんはころころ、と猫が鳴くように微かに笑った
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