第一章

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「猫みたい。」 ぽつりと誰かがそう言った。 時雨くんは青い瞳を見開いていた。 「え……?」 いや、俺しかいないんだけど。 「いや、だって時雨くん自由だし、勝手だし……」 「…………。」 静かにうつむいて震える時雨くん。 俺は一瞬戸惑ったが、手を伸ばした。 「ちょっと寂しがり屋で怒りやすいし。」 ふわふわした柔らかくて細い髪を撫でる。 「…………。」 「たまに優しいし。」 「猫ってたまに優しいもん?」 「んー、たまに?優しいんじゃないかな?」  「俺、たまに優しいの?」 「……ホントにたまぁぁっに優しいかも。」 「じゃあ悟は犬だね。」 なんだとぉ!? と言った感じで時雨くんになにかを言おうとする。 が、 手を捕まれ、引っ張られる。 そういえばずっと立っていた。 ここ俺んちなのに。 時雨くんはベッドに座ってたから俺は時雨くんに向かって倒れこんだ。 ぼさり、とベッドが沈む。 なんだか俺が上にいるので見た感じ平凡男に襲いかかれている美少年的なあかん犯罪臭が漂うのだが…… 耳の横では乾いた笑い声が聞こえた。 「ずっと、優しくしてね?」 世の女子がこんなことを言われてしまえばあまりの甘ったるい声に身も心も溶けちゃっただろう。 おまけによしよしと頭を撫でられたのだ。 俺は背筋がぞわりと凍りつく。 な、なんなのこの時雨くん! 誰この時雨くん。偽物?? はっっ!? いや、ちがう! こんな夢幻なあっまぁーい時雨くんに騙されてはならない! あっぶねぇぇ……危うく忘れてしまうところだった。 「そういえば時雨くん……よくも俺と帰る約束を破ったな……」 「えー?なんのことー?」 「白々しい!ごまかしても無駄だ!お天道様が許してもこの俺が許さっ、ふぉごっ!?」   ないと言おうとした瞬間口を手で覆われた。 時雨くんの手が俺の口に当たったのにちょっとばかし申し訳なかったが勝手に塞いできたのは時雨くんだから俺は悪くないのだ。 悪いのは時雨くん。 俺は悪くない!断じて悪くないぞ! ぐるりっと突然視界が回る。 おえっ、気持ち悪っ! 「あはは、悟が許さなくて俺になんの損があるの?」
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