第一章

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どうやら時雨くんが形勢逆転、 俺が上になっていた不思議な倒れ方がいつのまにか時雨くんが上になって俺にまたがっていた。 口元は強く手で捕まれて、苦しい。 鼻で息をすることはできるが鼻息が時雨くんのお手に当たってしまうので…… いやいや!なんで俺がそんなことをいちいち考えねばならないのだろうか。 人類皆平等、これがイケメンの力か。 無意識的に人権という存在を忘れさせる力が! って、違う違う! 「ふっ、うぅっー!ぅっっ!」 がしりと掴まれた手を引き剥がす。   しかし無情にも非力なインドア悟は正直時雨くんの手を引き剥がすことができなさそうだ。 なんなのだね!時雨くん! 俺に意見くらい言わせろ! 「別に悟に嫌われたって俺は構わないんだよ?」 ぴたり、と手を引き剥がす動きを止めた。 時雨くんを見つめる。 蒼く宝石みたいな、コバルトブルーの瞳に俺が映り込んでいた。 表情は、笑顔なのに目は全然笑ってなどいない。 「別に、構わないんだ。」 ぽつり、と言った彼の一言に俺は胸をぐさりと刺されるような痛みが走る。 ゆっくりと手が離れる。 俺は口で息を吸った。 「話の論点をずらすんじゃありません!」 目が大きく見開かれる。 そして表情がなんとも言えないくらい歪み、 少し怖い。 少しだけだ。 ほんのちょっーと…… ちょっとだかんな。 睨まれたくらいで、俺は…… 「そうだね。論点をずらしたかもゴメンね。」 すぐに謝罪した時雨くん。 やけに素直で不気味だな。 というか、そんなに素直なら俺の上から降りてから謝罪してほしいというか……と言うのは自重して溜め息をつく。 「時雨くん。」 「なに?」 寂しそうな目で見るなよ。 そんなの卑怯だ フェイスマジシャン時雨くん。 俺は怒ってるのにすぐにほだされる。 「時雨くんを俺は嫌いになれないんだ。」 あー、だめだ。 堪えられない。 目から込み上げてくる熱さがこぼれ落ちる。 視界がぼやけてじわじわする。 時雨くんがどんな顔をしているのかわからない。 何泣いてるの。気持ち悪い……みたいな顔かな? 「ずるいね、ほんと。」
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