第一章

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「変なとこでネガティブになるなよ!そういうところが嫌い。」 「うん……」 「急に怒られたとたんになんでそんなしおらしくするの、ほんと嫌い。」 「うん。」 「こんな自分だからってイケメンがそんなこと言うのとかほんとマジ嫌い!」 「うん。」 「あと、あとは……あとは!」 「……うん」 「あとは……っ、あとは!っ、ぅ……ぁ」 ボロボロ涙をこぼして泣きわめいて時雨くんの肩にしがみついて、 これのどこが時雨くんを嫌いになっただなんて言えるんだろう。 「だめなんだ。これ以上、なんにもないんだ。」 嫌いになんかなれないんだ。 どれだけ俺が寂しくなっても 悲しくなっても、苦しくなっても。 その理由が時雨くんでも。 「悟、……ごめんね。」 背中を撫でられ誤魔化される。 全部なかったことになる。 「でもさ、お前。俺との約束も破ってるからな」 耳の横で響いた重い声。 爪をたてられた。 ぎぃーっと黒板を引っ掻くみたいに背中を爪でなぞられる。 服越しからで痛みはそれほどなかったが、 訳がわからないまま、体が震えた。 「え……しぐ……っ??」 「ひどいなぁ、悟。忘れてるの?まぁ、いいんだよ忘れていても……俺は悟のこと好きだよ。」 俺は悟のこと好きだよ、甘い声で耳元に囁く時雨くん。 ぞわり、と鳥肌がたつ。 それは歓喜とかそういう類いじゃなくて、 なんだか本能のようなもので怖いと感じた。 「時雨くん……」  横目で時雨くんを見た。 にこり、と笑い 頬にすり寄る時雨くん。 すべすべな肌と柔らかい髪が頬をくすぐり身じろぎする。 「あーぁ。今部屋のなかには誰もいないね?」 残念がるような口調の時雨くん。 どういう意味なのか、 頭を回転させる。 俺はゾッとして、離れようと体を押した。 「時雨くん?」 「部屋のなかには二人しかいない。だとしたらやることはひとつだよねぇぇ?」 嫌な予感がした。
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