宇宙人心理

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 エム星人は残念そうに望遠鏡から遠ざかる地球を眺めるのであった。  『宇宙人心理』なる短編小説。その顛末を読み終え、S出版社の編集長は面白くなさそうに、原稿を雑にテーブルに放り投げた。時間をかけ、推敲に推敲を重ねた原稿を雑に扱われた伊藤は無言のまま、編集長を見つめるしかなかった。自分は作家であり、それを評価するのは他でもない編集長であるから。  編集長は偉そうにソファーに座ると、禁煙と書かれた紙の前でタバコを吸っている。禁煙とは書かれているが、これは編集長の癖である。いつも、原稿を読み終えたら一本、タバコを吸う。それが、彼の習わし。ただ、禁煙しろと自らいい張り紙を貼らせておきながらタバコを吸うという矛盾した行動をとる編集長の態度は周囲からまりいい評価を得ていない。それでも、編集長としての腕はいいので半ば黙認されていた。  少し間をおいて、編集長は口を開いた。 「君ね。今時、SF小説なんて流行らないんだよ」  彼の口から出た言葉は厳しい意見だった。伊藤は黙って、編集長の言葉に耳を傾ける。 「星新一や小松左京と日本を代表するSF作家の彼らに憧れているのは分かるよ。文章を読めば、文体が似通っているから。だけどね、あの方々は昭和の中頃から後期にかけて名を馳せた作家であって、平成も四半世紀も経った現代の日本では合わないんだ。確かに、オチはユーモアがあったり、宇宙人の描写はいいかもしれない。だけどね・・・」  編集長は色々と言葉を選んでいるようだが、結局のところ、SF小説だけではやっていけないということだ。 「十数年ほど前、オカルトブームの頃だったら、採用していたけれど。こっちも商売だから・・・。悪く思わないでくれよ」  伊藤が持ってきた原稿は没ということで編集長の眼鏡にかなうことはなかった。しかし、伊藤は少しも落ち込む様子もなく、原稿を茶封筒にしまうと、 「お忙しいところありがとうございました」  丁寧に頭を下げ席を立ちS出版社をあとにした。
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