宇宙人心理

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「今の君達は貴重なのさ。私の統計では、あと百年もすれば私達に追いつくはずさ」 「百年で・・・!それは素晴らしいことだ!その頃、僕は生きているかどうか分からないけれど、見てみたいものだ」  伊藤はすっかり嬉しくなって酒をますます飲んだ。そして、やがて彼は疲れたのか眠ってしまった。  エム星人だけはまだ酒を飲んでいた。相変わらず、表情に変化はみられなかったが、声だけは少し寂しさを帯びているように思えた。 「私としては、その時が訪れてほしくないのですが・・・」  睡眠薬の効果で眠ってしまった伊藤に、彼の言葉が届いてはいなかった。  エム星人が地球に滞在していた期間は短かった。伊藤のところに同居させてもらっていた日を合わせても半年ぐらいである。半年間の調査を終えた、エム星人は小さな記憶媒体に調査結果を保存すると、眠りにつかせた伊藤に簡単な記憶操作を行った。宇宙人であるエム星人と会ったことを忘れてもらう為に。元来、地球人との直接的な接触は好ましくなかった。エム星人の彼のように、特殊な調査をしている人を除いて接触することはできない。接触できる職務についていたとしても、接触したという記憶は消しておかないといけない。そうでないと、色々と不都合が起きてしまうからだ。  エム星人が地球にいたことなど、誰一人知ることはなかった。伊藤ですら目を覚ました時には、酒が空っぽになっているのを見て昨晩は飲み過ぎたと思った。誰かと一緒に酒を飲んでいた記憶は微塵も残されていない。  宇宙人に干渉されることなく地球人は進化を続けた。技術力の面もそうであるが、やはり大きな成果はDNAを解析したことによる人類の直接的な進化だろうか。従来は自然に任せていた進化。本来なら、数百年、数千年単位での進化も僅かな時間に行えるようになった。ただ、何の代償もなかった訳ではない、  短期的な進化は人類の内面から普遍的な感情をそぎ落としていった。この頃の人々には、すれにその傾向があった。  不快なことがあっても口にしない。  相手を尊重しない。  臨機応変と聞こえはいいが、その場凌ぎの態度。  それらは、人間にとって必要な普遍的な感情が社会の進歩に合わせそぎ落とされている証でもあった。
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