音叉

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聞こえていた。 遠く、とても悲しい声が。 最初は誰かが啜り泣いているんだと思っていた。 なのにどうして? それは聞こえている癖に、声の持ち主は決して見つからなかったんだ。 声に気づくと、ボクはあちこちを探した。 机の下も、ベッドの下も、閉じられていた戸棚の中も。 その度に、お母さんに「何をしているの?」と不思議そうな顔をされたけど。 絶対に誰も探し出せなかった。 その声は絶え間なく続いている癖に、ちょっとした事で直ぐに聞こえなくなる。 ううん、逆かな。 何時もは気にならないのに、ふとした瞬間に囁かれるんだ。 耳元で寂しく、祈るみたいな小さな声で。 ボクが友達と楽しくお喋りしてたり、美味しい御飯を食べている時なんかは全く聞こえない。 その癖、何かの弾みで思い出すと必ず聞こえ出す。 遠く遠く、きっと果てしなく遠い場所から。 か細い声は小さな鳥の囀りの様で、狂おしく胸を締め付ける響きをボクへと届ける。 ほら、今だって。 こうして一人、心を静めて声を探すんだ。 最近はどこから聞こえて来るか、方向が分かる様になっていたから。 だからきっと、見つけ出せる。 何時もボクだけに聞こえる、声。 お願い待っていて、必ず見つけるから。 君の声を頼りに、ボクが探し出して見せるから。
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