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──それ以来、僕の周りに白百合が咲くようになった。
畳の上、ガラス窓、布団の中でさえも、ふと見ると凛とした風情の百合の花が生えている。
君の名と同じ、穢れを知らぬ純白の花。
その傍に……必ず君が現れる。
僕はそれを直視できない。いつも目の端に君のぼんやりした影を捉えながら、心臓を冷たい手で握られたような痛みと過呼吸に喘ぐ。
今も文机に向かっていた僕の背後に百合が咲いた。ほら、背中に……ザワリと君の気配。
振り向けない。
隅に積まれた行李からも、文机からも、百合の茎が見る間に伸びて身体中に絡み、僕を静かに畳の上に押し倒した。
(あ……ぁああはあ……っ……)
君の怨霊に、こうして僕は永遠に囚われる。
頭の先に君の気配はあるものの、目を上げて恨みに歪んだ紅い瞳を見る勇気はない。
部屋じゅう百合、ゆり、ユリユリユリユリユリユリユリユリ……真っ白い百合の花。
その中心で仰向けになった僕は、さながら黄泉に送られる死人のよう──。
ダンダンダン!
突然響いた襖を叩く音に、部屋の百合が霞むように消えていく。
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