真紅の白百合

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「ちょいと秀之助さん! アンタに変な客が来たんだけど」  無遠慮に襖を開けたのはこの下宿屋の女将(おかみ)、マチ子。  顔をキャンバスに見立てたように白粉(おしろい)を塗り込め、モガを気取って洋装のワンピースしか身に付けない四十がらみの女だ。  僕は仰向けのまま、額の冷たい汗を拭いもせずに口を開く。 「……浪漫画報の人なら、机の上にある絵を渡して帰ってもらってください……」 「なんだい、また春画なんか描いてるの」  襖を閉め、ずかずかと部屋に入ってきたマチ子が文机に乗った紙切れを取り上げた。 「ただのメス猿の絵ですよ……」  僕は小さな風俗誌に載る官能小説の挿し絵を描いて食いつないでいる。  もう絵は描けないと思っていたのに、こんな物なら手が動くのだからお笑い草だ。  するとマチ子が僕の枕元に座り込んで声をひそめた。 「それがさぁ、いつもの画報の人じゃないんだよ。なんかこう、目つきの悪いオッサン。このあたりじゃ見たことないね」  ピクリと、汗に濡れた眉が振れる。 「ここに秀之助って絵描きは居ないかって。アンタのこと根掘り葉掘り聞かれてさ。話がしたいから会わせろって」 「それで……マチ子さんはなんと答えたんです?」
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