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ただ、そろそろえみりもいろいろわかってくる年頃だ。
このままでいいのか、という思いが最近の彩子にはあった。
そんなとき、目にしたのがえみりのコンサートだ。
彼女が立つ最高の舞台を、彩子は家族で観に行こうと決心した。
亮介にそのことを伝えたとき、彼は意外にもあっさりとそれを受け入れた。
驚くわけでも嫌がるわけでもなく、ごく普通の当たり前のことのように、いつもの静かな笑みを浮かべたまま「わかった」と一言だけ呟いた。
まるで彩子がそう言ってくるのを待っていたかのような、そんな穏やかな空気だった。
小さなえみりには、昔からよく彼女の歌を聴かせていた。
子供が聴くには少し早すぎるかもしれないとは思ったけれど、どうしても好きになって欲しかった。
彩子の中の燻る思い。
生物学的には彩子と亮介の娘であることは間違いないのに、どこかで彩子は納得できないでいた。
えみりがくれた最後のプレゼントが、この小さなえみりなのではないか?
そんな気すらしてしていた。
結ばれたのは自分じゃない。
それは彩子を追い詰めもしたし、えみりに感謝する気持ちもあった。
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