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トゥルルルル……トゥルルルル……トゥルルルル…
まただ。
また鳴ってる。
携帯が主流の世の中で、家の電話が鳴るとしたら、それは勧誘かオレオレ詐欺、それに……
夫の愛人からの電話くらいだ。
だるい体をソファーから起こして、彩子はのろのろと電話のある場所へと移動する。
プッシュホンの白い機体を見つめながら、小さく息を吐いて受話器を取りあげた。
「はい、森野でございます」
「……」
「どちらさまですか?」
「……」
彩子にはわかっている。
この無言電話の向こうが誰なのか……
三ヶ月前から毎日のように続いてるだけに、そろそろ彩子にも限界がやってきそうだった。
「もしもし?」
切るでもなく、ただ息を潜めて彩子の声を聞く意味はなんなのだろう。
こうして根負けした彩子が、受話器を置くのが常だった。
1日1回、ちょうど昼時の時間。
毎日毎日よくも飽きないなと彩子は思う。
土日はかけてこないところを見ると、もしかしたら平日の昼休憩にでもかけているのかもしれない。
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