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えみりの、便箋を持つ手が震える。
そんな変化に気づいたのか、運転しているマネージャーがミラー越しにえみりをちらりと見やった。
車内の乾燥した空気を吸い込み一気に吐き出す。
そうでもしないと、涙がこぼれ落ちてしまいそうだった。
先ほどの、あの女の子を迎えに来ていた両親の後ろ姿を思い出す。
あれは、亮介と彩子だったのだ。
振り返ることなく、女の子を間に挟んで手を繋ぐごく普通の親子の姿。
それはとても仲のいい家族に、えみりの目には映った。
よかった…
手紙の内容が、えみりを気遣うだけの嘘ではないということが、あの光景で裏付けられる。
きっと本当に彩子は昔の自分を脱せたんだろう。
そして亮介もまた彩子ときちんと向き合って歩み寄ったに違いない。
鼻の奥がツンとして我慢していた涙が頬を伝う。
一度、流れ出した涙は後から後からこぼれ落ち、持っていた便箋を濡らしていった。
亮介が、えみりの知る彼だったことへの安堵と、普通の幸せを手に入れることができた彩子への祝福の気持ちが入り混じる。
自分のしたことは間違ってなかった。
間違っていたけど、自分の存在が彼らを今に導いたんだとしたら、あの出逢いは無駄じゃない。
そして自分自身もあの夫婦のおかけで成長できたのかもしれないと、えみりはゆっくりと便箋を畳み封筒にしまった。
「……どうかしたのか?」
メガネの奥が心配そうに揺れている。
私よりも10歳年上の彼は、とても優秀で信頼できるマネージャーだ。
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