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黒のワゴン車の窓からファンに向かっていつまでも手を振り続けるえみりの姿を眺めながら、彩子は胸が熱くなっていた。
久しぶりに見る彼女は、相変わらず美しく、慈愛に満ちている。
誰であっても一生懸命向き合おうとする姿勢は、こんなに有名人になっても変わらない。
きっとファンも大切にしているんだろうことが、その姿から窺える。
彩子はスカイグレーの細身のコートから覗く白い手をそっと伸ばして、隣にいる小さな手を柔らかく握った。
不思議そうに見上げる可愛らしい瞳は、彩子の子でありながら、えみりによく似ているような気がする。
「……ママ?」
呼ばれて彩子はハッとした。
「ごめん、ごめん、ぼーっとしちゃった
どうだった?お姉ちゃん可愛かったでしょ?」
ふいに現実に引き戻されて、彩子は動揺しながらも、彼女の背の高さまでしゃがんでそう聞いてみる。
「うん!えみりとお名前が一緒なんだよってお話したら、ギューってしてくれたんだよ!」
嬉しそうにそう話す小さなえみりを見ながら、彩子の顔にも笑みがこぼれる。
今日のために新調した、薄桃色のドレスはえみりに良く似合っていた。
白のファーのついたコートもおしゃまなえみりのお気に入りだ。
胸まである色素の薄い細い毛をクルクルとお姫様のように巻き髪にしたのは、彩子本人である。
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