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亮介の背中をしばらく二人で見送った後、彩子はえみりの手を引いて反対方向へと足を踏み出す。
木枯らしが彩子の少し短くなった髪を揺らした。
「さむーい!」
えみりがそう言いながら首をすくめて、彩子の腕にしがみつく。
そして無邪気に彩子を見上げながら、言った。
「今度の日曜日は、またパパに会える?」
さっきの亮介との会話を聞いていたんだろう。
彩子は苦笑いしながら、そうだね?と優しく答えた。
「パパはお仕事忙しいもんねぇ…」
少し眠いのか、彩子の腕にぶら下がるようにしがみついて、そう呟く。
えみりのそんな言葉を聞くたびに、彩子はほんの少しだけ罪悪感を覚えていた。
彼女の髪を撫でながら、駅に向かってゆっくりと歩く。
途中、タクシーを拾おうかとも思ったが、あまり贅沢はできないと、彩子はえみりの体を抱き上げた。
5歳にしてはそれほど大きくはないえみりでも、小柄な彩子が抱き上げると充分ずっしりと重みが加わる。
それでも、うとうととし始めた彼女を歩かせるよりはと、抱えたまま歩き出した。
こんなとき、父親がそばにいればと思わないこともない。
けれど、これは彩子が自分で決断した結果なのだ。
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