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抱きながらしばらく歩くと、地下鉄の入口が見えた。
階段を注意深くゆっくりと降りてポケットからICカードを取り出す。
一度立ち止まってえみりを抱えなおしてから、改札を抜けホームへ続くエスカレーターに乗った。
すぐに電車がホームに入ってくる。
ラッシュの時間よりは少し早いからか、車内はそれほど混雑していない。
彩子はホッとしながら、ドアが開いてすぐの椅子にえみりを抱いたまま腰掛けた。
電車がゆっくり走り出すと、温かな空気と程よい揺れが、彩子の瞼を閉じさせる。
トントンとえみりの背中を優しくさすりながら、彩子はゆっくり目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、ついさっき見たばかりの美しいえみりの姿。
彼女は手紙を読んでくれただろうか?
彩子の思いを受け止めてくれただろうか?
彩子は昨夜何度も書き直したえみりへの手紙の内容を思い返す。
えみりには、もう過去にとらわれずに未来に向かって羽ばたいてほしい。
それは彩子の嘘偽りのない気持ちだ。
彼女への感謝の気持ちも幸せを願う気持ちも、この5年ずっと抱き続けてきた彩子の変わらない思い。
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