705人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
過程はどうあれ、子供を授かるということは、彩子の長年の夢でもあった。
産まない選択などあり得ない。
ずっと孤独だった彩子にとって、自分が初めて一人じゃないんだと感じる瞬間だ。
卑屈だった自分に、どんどん勇気が湧いてくる。
この子のためにできること。この子のためにしなきゃいけないこと。
いろんな思いが頭をめぐり、最終的にたどり着いたのは、今ある現状の打破だった。
彩子は決心する。まだ小さなお腹の命に誓いを立てて、これから実行に移す様々なことを。
その日の夜、彩子は亮介に妊娠の事実を伝えた。
驚いたように目を見開いたものの、次の瞬間にはフッと表情を崩して、そうか……と亮介は少しだけ微笑んだ。
彩子は確信する。
亮介にとって、それはあながちなくもないことだったんだと。
妊娠に至る行為が、彩子との間にあったんだと。
自分に身に覚えのない妊娠が語るものなど一つしかない。
えみりが彩子でいるときに結ばれたものだ。
それを確信したとき、彩子の中で何かがパチンと弾けた。
最初のコメントを投稿しよう!