彩子side-end

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「……なんだ?」 少し警戒するように、眉間にしわを寄せながら亮介がこちらを窺う。 薄手のトレンチコートを羽織ったままの亮介が少し前のめりになったことで、衣擦れの音がカサカサと響いた。 わざと個室を選んだのには理由がある。 こんな話を大部屋でなど出来ない。 ましてや、家に帰ってからでは、まともに取り合ってくれないかもしれないという、彩子なりの策だった。 彩子は一度、亮介から視線を外し、ベッド脇に設置された棚についている引き出しから、ホチキスで止められた数枚の紙を取り出す。 それをギュッと掴んで覚悟を決めた後、亮介に向き直り、黙ったまま差し出した。 亮介は怪訝な顔で彩子を見つめながら、ゆっくりと手を伸ばしその紙を受け取ると、目線をそちらに落として目を見開いた。 「これは……どういうことだ?」 怒りなのか落胆なのか声が震えているのがわかる。 それはそうだろう。亮介は思っていたはずだ。 自分は彩子とやり直せているのだと。 以前とは真逆なくらい彩子を気遣い、感謝の気持ちもきちんと表していた。 子供も出来て、これからは普通の家族のように暮らしていけると思っていたに違いない。 彩子の燻る思いには何一つ気づかずに……
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