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「全部、読んでもらえる?
……それからそれを受け入れてもらえるなら……サインしてほしいの」
それは遠い昔、彩子が亮介に言われたのと同じセリフ。
あの時の自分は、藁にもすがる思いで亮介の申し出を受け入れた。
もう後がなかった彩子の、苦渋の決断。
亮介はどうでるだろうか?
イエスなのか、ノーなのかそれは彩子の賭けでもあった。
もし、受け入れられなければ、もっとも辛い選択を彩子はしなければならない。
亮介はしばらくそのまま書類を握りしめて、彩子を睨むように見つめていたが、やがて諦めたように目を落とし長く大きなため息をついた。
それから、おもむろに手にしていた紙のページを捲り中身を確かめるように読み始めた。
パラパラと紙を捲る音だけが響く。
それほど多くない枚数なだけに、すぐにそれは元の状態に戻された。
亮介が顔を上げ彩子の顔を見る。
その表情からはどんな答えを出すのか読み取れない。
彩子もまた不安を抱えながらも、亮介の顔をじっと見つめ返して彼が口を開くのを待った。
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