577人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
もし、自分だったならあのとき彼を受け入れていなかったかもしれない。
事実、元の体に戻ってから、彩子は亮介と一度も交わってはいないのだ。
あの日、えみりの身体で亮介に抱かれた時、嫌というほど彩子は思い知った。
自分に求められているものがなんなのか、女としてではない妻という立場なんだということを。
だから、彩子は決めたのだ。
もし、元の体に戻れたなら、妻として仕事のパートナーとして、亮介を支えていこうと。
女の悦びなど、もうとうに捨てていた。
えみりに触れる亮介は確かに亮介なはずなのに、彩子の知らない顔をして、彩子の知らない声で、指で、えみりを慈しんでいたのだから。
結婚してから一度も、身体を重ねる時でさえ義務のような、そんな悲しいものだった彩子にとって、あの出来事はそのくらい衝撃的なものだった。
だから、彩子はえみりに負けない土俵で亮介に必要とされようとしたのだ。
そこに訪れた妊娠という事実。
亮介が彩子の中で果てたという証。
あんなに焦がれても叶わなかったそれは、あっさりとえみりに奪われたのだと、複雑な思いが彩子を支配した。
最初のコメントを投稿しよう!