えみりside-8

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扉を開けると珈琲の香りが鼻を掠めた。 やはり亮介はまだ出勤していないらしい。 自分で珈琲くらいはいれられるんだな?と、えみりは可笑しくなる。 全てを彩子に任せ、家のことなどなにもしてこなかったと聞いたから、なにも出来ないのかと思ったけれど、そうではないのだ。 えみりをエスコートする様子を思い出してみても、自分のことは自分でできるタイプだとえみりは思う。 だから敢えて、なのだ。 余計にたちが悪い。 一度大きく深呼吸をしてから、パンプスを脱いで立派な上がり框に足を踏み出した。 「ただいま」 リビングに顔を覗かせると、ソファーに座り優雅にカップを持つ亮介の姿が目にはいる。 チラッとだけ顔を上げてえみりの姿を一瞥すると、亮介は静かにカップをテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がった。 ゴクリと唾を呑み込みながら、えみりは身構える。 なにか言われるんだろうか?と。 もしそうならば、こちらも反撃の用意はある。 暴力はさすがに振るわないだろう。 ツカツカと近づいてくる亮介を、えみりはじっとそらすことなく見つめた。
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