2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
第一章
父の存在が大嫌いだった。
何を言うにも上から目線で、頭ごなしに怒る。気分で怒鳴る。些細なことで大声を張り上げ、理不尽に手を上げた。そんな父は私たち兄弟からすれば、一家の大黒柱というよりも、法律そのものだった。
自分が何より正しいと思っているようで、ほかのどの家とも比較するだけ無駄だった。
「祐子(ゆうこ)ちゃんちはこうしていたよ」
なんて言ってみても、
「だからどうした。うちはうちだ」
と言われるばかりだった。
“過干渉”という言葉を、中学生の頃には知っていた。それは私の中で当然のように口に出される言葉だったが、同年代の周りの子には理解されないものだというのも、そのうち分かるようになった。
長男はそれで、ひどく内気に育った。次男はなぜか楽天的になり、私はそんな兄たちを見て、ずる賢く学んでいった。
同じように育てられていただろうに、兄弟で私だけが女だからなのか、周りの大人たちには、「末っ子長女だから、甘やかされている」と映るようだった。何とも理不尽な話だ。私は、生き方を自分で学んだだけなのに。なるべく怒られないように。できるだけ明るくいるために。
そうしている内に、私は自分がどういう性格なのか。自分は周りに必要とされているのか。そんな暗い思想が常に頭の中を埋め尽くすようになっていた。
明日私が死んだとして、世界は変わるのだろうか。
死にたいと思っているわけではなかった。ただ、自分の存在意義が分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!