第一章

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第一章

父の存在が大嫌いだった。 何を言うにも上から目線で、頭ごなしに怒る。気分で怒鳴る。些細なことで大声を張り上げ、理不尽に手を上げた。そんな父は私たち兄弟からすれば、一家の大黒柱というよりも、法律そのものだった。 自分が何より正しいと思っているようで、ほかのどの家とも比較するだけ無駄だった。 「祐子(ゆうこ)ちゃんちはこうしていたよ」 なんて言ってみても、 「だからどうした。うちはうちだ」 と言われるばかりだった。 “過干渉”という言葉を、中学生の頃には知っていた。それは私の中で当然のように口に出される言葉だったが、同年代の周りの子には理解されないものだというのも、そのうち分かるようになった。 長男はそれで、ひどく内気に育った。次男はなぜか楽天的になり、私はそんな兄たちを見て、ずる賢く学んでいった。 同じように育てられていただろうに、兄弟で私だけが女だからなのか、周りの大人たちには、「末っ子長女だから、甘やかされている」と映るようだった。何とも理不尽な話だ。私は、生き方を自分で学んだだけなのに。なるべく怒られないように。できるだけ明るくいるために。 そうしている内に、私は自分がどういう性格なのか。自分は周りに必要とされているのか。そんな暗い思想が常に頭の中を埋め尽くすようになっていた。 明日私が死んだとして、世界は変わるのだろうか。 死にたいと思っているわけではなかった。ただ、自分の存在意義が分からなかった。
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