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プロローグ2
衣擦れの音をさせて小さな黒い頭が柱の陰からのぞいた。その様子に、書物を読んでいた義高は顔をあげて、微笑んだ。
「義高様」
「姫、どうなされた?」
「お勉めが終わったら、庭にまいりましょう?」
少し舌足らずで可愛らしい声が誘いをかける姿に、義高はくすぐったいような抱きしめたいような心地がして立ち上がった。
「もう終わりましたよ」
そう言った義高に、姫は部屋の中に入ってくると、広げたままの書物を覗きこんだ。
「本当に? 姫に気を遣ってそんなことを言ったら怒りますよ?」
六歳ながらませた口をきく姫を愛しく思いながら、義高は頭を振った。
「違います。僕もそろそろ息抜きをしたいと思っていたんです」
そう言って書物を閉じた時、慌ただしい衣擦れの音と声がした。
「姫様、大姫様ー!」
おつきの侍女が大姫と呼ばれた姫を探している声だ。それは近づいてきていた。
「姫様! また義高様のお邪魔をなさりに来たのですか?!」
大姫の侍女は、義高のそばに大姫が来ることをあまり望んでいない。それを知っている義高は大姫に気づかれないように小さくため息をついた。
「違うわ!」
むっとしたような声が愛らしく抗議の声をあげた。
「義高様、お勉め中、大変失礼いたしましたわ。姫、さ、向こうで一緒に遊びましょう」
大姫を義高から少しでも遠ざけようとする意志を感じとって、義高は唇を引き結んだ。
「いや! 姫は義高様と一緒にいる」
「いけませんよ」
「どうして? 義高様は姫の旦那様。妻が旦那様と一緒にいるのがどうしていけないの?」
必死に言い募る大姫が可愛くて、義高は微笑むと侍女を見た。
「もうお勉めは終わりました。姫と庭の散策に参りたいので、お下がりください」
「……分かりました」
渋々というように侍女が下がる。おもしろくない想いをしているのだろうことはその表情からも分かった。
侍女が義高にべったりな大姫の心配をするのは当然だ。苦笑しながら、近づいて書物の片付けを手伝ってくれる大姫を見つめる。
本当に、結婚して末長く共に暮らせたなら。
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