ー八年後・今ー

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ー八年後・今ー

 何日か考えた末に、私は和士に短いメールを送った。「元気です」と。私の詳しい近況は伝える事が出来なかった。全て、私が勝手に決めた事だから、伝える事も出来ない。返ってきたメールには、「会いに行ってもいいか?」と綴られた。  あれから八年。私は何も変わっていない。未だに八年前の和士の面影をずっと胸に抱いている。とても面差しの似た息子にそれを重ねて。私は大和にずっと、もう会えない和士の姿を重ねていた。大和が居るから、私は一人きりでも耐えられた。父親を知らないのに、成長するに連れて段々と和士に似ていく大和が私の救いだった。そんな自己満足はとてもではないけれど、誰にも伝えられない。  私の左の薬指には未だシルバーのシンプルな指輪が外せない。  何度か会いたいと言うメールを貰った末に私の我慢は限界を迎えた。私の心は八年前からずっと変わらずに和士を好きなままだ。今の住所を伝えるメールを送ると、日曜日に訪ねると返ってきた。その日曜日を私は、心臓が張り裂けるような気持ちで迎えた。ただ、大和を否定されたくなくて、大和には遊びに行く様に言い含めた。そんな日曜日。  私は息子がいる事を伝えないままに迎えた。チャイムが鳴ったドアを開けると、あまり変わらない和士が居た。左に丈をついていた。手紙でようやく左半身の麻痺が和らいだと綴られていたけれど、私にはまだ痛々しい。八年かかっても、まだ事故の爪痕は残ってる。 「……八年振り」  困り笑いで言われた。私はやっぱり和士が好きで、好きで、どうしようもなかった。姿は八年分変わっても、私にかける声は変わっていない。涙が溢れた。 「沙耶?沙耶?どうしたんだよ」 「……ごめんなさい……」  玄関口で泣き崩れた私に和士は丈を置いて手をかけた。そんな風にされてしまったら、私は全ての虚勢が崩されてしまう。ずっと、一人で頑張っていたのに。自分の選択は間違ってないと、信じこもうとしていたのに。 「……沙耶、この指輪……」  私の肩に手をかけた和士が呟いた。 「気に入っているから。何でもないの」  左の薬指にずっと外すことなんて出来なかった指輪。でも、変な事を言ってはいけない。事故の後遺症が和らいだとは聞いたけれど、彼には彼の今があるはずだ。どうして会いたいなんて言ったのかまで、知らない。 「お母さん、どうしたの?誰?」  ふと、もっと後ろから聞き馴染んだ幼い声がした。大和だった。
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