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市街地を抜けて、山道に差し掛かると並んで走る車も対向車も殆どなかった。初めてバイクに乗せてもらって、慣れない私がそこまで見る余裕がなかっただけかも知れない。どれくらい走ったかな、と思った頃にずっと影になっていた木の隙間からちらちらと夜景が見えては流れていった。車から見るよりもずっと早く、夜景の光は後ろに流れていくような気がして、私はそれをずっと見ていた。そうしているうちに、バイクは上まで登り切ってしまって、開けた駐車場に止まる。
「沙耶、ついたよ。怖かった?」
エンジンを切って先に降りながら和士は私に言った。私は頭を横に降った。
和氏は脱いだヘルメットをハンドルにかけて、ポケットから携帯を取り出してメールをチェックしてる。
「梨香と幸宏くんもう着いてるって?」
私が先にヘルメットを脱ぎながら、和士に訊いた。一人で乗るのも大変だったのに、一人で降りるのはまた大変そうだ。
「うん。途中で追い抜かされた。気付いてたけどさ。ーー手、貸そうか?」
悔しそうに言いながら、和士は私の手からヘルメットを受け取って、降りるのに手を貸してくれた。なかなか、バイクと言うのはただかっこいいだけの乗り物ではなかった。
「あのさ、俺、実は幸宏と勝負してたんだよね」
「勝負?何してたの、もう」
バイクから私を降ろした後も、手を握ったままに和士が言った。
「負けたら、俺が沙耶に告白するって」
「何言ってんの!?負けたら!?」
「そう。俺が沙耶迎えに行って、ここまでの距離、幸宏とどっちが早くつくか。あいつらさ、二人で付き合ってるから、俺の事じれったいみたいでさ。煮え切らないから」
そんなことを馬鹿正直に私にまで言っちゃう和士もどうかしてると思う。
「だからって何よ!人の気持ちを賭け事にするんじゃないわよ!」
「まあ、あいつも悪気はないからさ。そんなんでもないと、きっと俺、言えないし」
ぎゅ、と手を強く握って暗い駐車場で和士が私を真っ直ぐに見た。
「沙耶、俺と付き合って」
握る手が大きくて、私は驚いたままに和士を見つめ返していた。私よりも背が高い分、後ろから差す月明かりに影になって暗く見える。けれど、真剣な目。
「……賭けに負けたから?」
「関係ないよ。俺は、沙耶が好きだ」
はっきりと、和士は私に言った。
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