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ー手紙ー
ある日、夕方に帰ってきていつもの様にポストを確認すると、実家から一通の封書が投げ込みのチラシやダイレクトメールに混じって届いていた。実家からわざわざ封書で連絡をもらうことなんて何年もなかった私は、何だろうと思いながら、それらを手にして部屋まで戻った。
「ただいま、大和」
玄関でそう言うと、すぐに返事が返ってくる。
「おかえり、お母さん」
「お腹空いているでしょう?すぐお夕飯作るわね」
リビングのテーブルに郵便物を放り出してから寝室で着替えをしてキッチンに向かうと、大和がリビングからついて来た。
「僕も手伝うよ」
「いいわよ。それより宿題した?」
「ごはん食べてからするよ」
「先にやっちゃいなさい。お夕飯、簡単だけど、オムライスでいい?」
「いいよ。好き!」
そう言って、大和はキッチンからリビングに戻っていった。
大和。私の一人息子。もう、小学校一年生。早いものだな、と私はリビングで教科書とノートを開いている大和を見て思わず顔がほころぶ。大和と二人きりで暮らすようになって、もう五年以上が経つ。子供が産まれると時間が経つのを早く感じるのは本当だと思う。
冷蔵庫の中身を確認して、夕飯の用意をしながら、私はふと郵便物に混じっていた実家からの封書を思い出した。封筒の表書きには、母の神経質そうな文字で宛名が書かれていた。夕飯を済ませてから、ゆっくりと中身を確認しよう。
「大和、お夕飯出来たわよ。テーブルの上片付けて」
「はーい」
夕飯の後片付けを済ませて、宿題を見て、大和が風呂に入っている間に私はテーブルの上に放り出していた郵便物から投げ込みのチラシとダイレクトメールを分けて、それから実家から送られてきた封書の封を切った。中には短い手紙と、封を切っていないいびつに折られてしまった白い封筒。
手紙には母の文字で、「こちらに届いたので、転送します」と言う簡潔な文章のみ。
折られた白い封筒を伸ばして見ると、確かに宛名は私だった。宮坂沙耶様。几帳面そうな文字には見覚えがなく、封筒を返して差出人の名前を見た。柏葉和士。
私は、その差出人の名前を見て驚き、どうしてもその白い封筒の封を切るのが躊躇われた。白い封筒をテーブルに置いたまま、迷っている私に風呂から上がってきた大和が声をかけてきた。
「どうしたの?お母さん。ぼんやりしてるよ」
「……なんでもないわよ。お風呂入ってきちゃうわね」
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