犬のご褒美

1/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

犬のご褒美

 私が子供の頃だから、もう四十年近く前のことだ。  当時、家の庭で犬を飼っていたのだが、コイツが時々、首輪から抜け出して脱走していた。  まだペットの管理にあまり文句の出なかった頃で、近所には放し飼いの犬もチラホラといた。だから脱走をしても、愛犬を強く咎める者はいなかったが、一つ困ることがあった。  それは、犬がやたらとガラクタを拾ってくるということだった。  欠けた植木鉢、穴の空いた片方だけの靴、綿のはみ出たぬいぐみなど、ゴミの日でもないのにどこから持って来たのだという品ばかりだ。  見つけるとすぐ取り上げ、処分していたが、ある頃から、持ってくる品がいっそう妙になった。  染みだらけの泥だらけの汚れたシャツ、錆びに錆びた刃こぼれだらけの鎌、古いし汚れているか、特に傷のない靴を一揃え。叩きつけたかのように割れた腕時計…。  持ってくる品のラインナップと状態に、家族全員もしやと思い、犬が持って来た品を近くの交番に持ち込んだ。すると、最初はガラクタ扱いだったが、お巡りさんももしやと懸念を抱いたらしく、犬が持って来た品はあれこれ調べられ、ついでに犬の動向も調べた結果、それらは総て、殺人事件の証拠品であることが判明した。  当時は人の手の入っていない空き地も多く、そこに杜撰に埋められていた死体を犬が掘り返し、被害者の持ち物を持ち帰っていたらしい。  いい癖ではないが、おかげで一つの事件が表沙汰になり、すぐに犯人も捕まったということで、我が家の犬表彰され、当時はまだ珍しかったドッグフードを大量に贈られることになった。  それがおよそ四十年前。  私もすっかり大人になり、妻子を得る立場となったが、今も当時のままに犬が好きで、あの頃家にいたとの同じ柴犬を飼っている。  そいつが、子供の頃飼っていた犬のように時々首輪から抜け出し、ガラクタを拾ってくるのだ。  当時と違い、今犬の放し飼いなど許されない。保健所も常に目を光らせている。だから何とかやめさせようとしたが、それでも家族の目を盗んで、犬は脱走してしまう。そして、ガラクタを持ってくるのだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!