92人が本棚に入れています
本棚に追加
/289ページ
ーーーいや、それはないだろうな。
対馬は自分の前を歩いて行く二人の後姿を見て思った。
二人は脆い関係でありながら、互いを尊敬し慕っている。
師弟関係を超えた本物の関係ーーー
そんな二人が、互いを危険に巻き込みかねない秘密を
明かすことはないのだろう。
俺だけは、俺が忍であることを二人ともが認識している、
ということが公になった訳だけど…
「…もっと俺も頑張らないとな」
対馬は少し悔しそうに呟いた。
「何か言ったか?」
芭蕉が振り向くと、対馬ははっとして首を振った。
「何も!ーーーそれより芭蕉さん、次はどこを旅するんだ?」
「そうだな…越後から海沿いに越中、金沢、福井などを巡って行きたいと思っている。
知り合いも多くいることだしな」
「芭蕉さん!僕、その辺りの土地にまつわる物語を沢山知っているんですよ!」
すると、曾良がきらきらと目を輝かせて言った。
「物語?」
「へえ、それは楽しみだな」
芭蕉と対馬は思わず、
まるでそれを一番の楽しみにしているかのような、
待っていたとばかりの笑みをこぼした。
「よし!ならば旅を急ぎましょう!」
曾良はご機嫌な様子で二人の前を走り抜けて行った。
「!おい、曾良待ちなさい」
「まったく、曾良は餓鬼だよなあ」
芭蕉と対馬は顔を見合わせ、くすりと微笑むと
曾良の後を追って駆けだした。
終
最初のコメントを投稿しよう!