八百屋お七

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「これ以上文句は言わせないからな、さあ行くぞ」 「ちょ…っ」 お七が戸惑っていることなど気にも留めず、小姓はずんずんと廊下を歩き始めた。 平然と手をつなぐ小姓と、怒りながらも握られた手を離そうとしないお七を 八兵衛は背後から微笑ましく見つめていた。 「どうも、すみませんねえ…」 住職は申し訳なさそうに言った。 「あやつはまだ見習いの者で、礼儀を叩きこんでいる最中なのですが」 「いいじゃないですか、歳も近いし、お七もここでの生活に退屈しないでしょう」 八兵衛はにこにこと言い、お峰と共に二人の後を着いて行った。 「…」 微笑ましそうに歩いて行く八兵衛の後姿を、 住職は複雑そうな表情で見送った。 お七達が案内された離れには、すでに避難してきていた町民で溢れていた。 見たことのある馴染みもいれば、初対面と思われる者も数多くいる。 「この区画がお前たち一家の生活範囲。 じゃあ、俺はこれで」 そう言って小姓が怠そうに背を向けた直後、近くから泣き声が上がった。 「うわああん、痛いよ…」 「あら、どうしたの?」 お七は間髪入れずに、泣いている声の元へ駆けて行った。 そこには小さな男の子が一人で立っており、 必死で手を押さえているのが見えた。 「逃げている途中で火に触れてしまったの。 さっきまで全然痛くなかったのに…」 「見せてごらんなさい」 お七が男の子の手を取ると、彼の手の甲に火ぶくれしている箇所があるのが目に入った。 「まあ!これは酷いわ。すぐに冷やさないと!」 お七はきょろきょろと周囲を見渡した後、先程の小姓を呼んだ。 「ちょっとあなた!水場の場所を教えて!」 「はあ?」 小姓は怠そうに振り返ったが、お七のすぐ横に やけどを負った子どもが立っているのを目にすると、 すぐさま駆け寄ってきた。 「おい、大丈夫か!痛いのか?」 「うん…」 「すぐ水場に連れて行ってやるからな。 ーーーおい、そこの女も着いて来い」 「お、女?!」 突然様子を変えた小姓に戸惑いつつも、 お七は追われるがまま小姓と男の子の後を着いて行った。 水場に来ると、小姓は男の子の手を水瓶の中に沈めた。 「こうしててやるから、じっとしてるんだぞ。 ーーーおい、そこの」
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