八百屋お七

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「ねえ!さっきから女とかそこのとか呼ばないで頂戴!」 「じゃあ何て呼べばいいんだよ」 「不本意だけど、名前を教えてあげるわ。私の名はお七よ」 「じゃ、お七。すぐに救護室から包帯を取ってこい。 場所はそこの廊下を曲がって二つ目だ」 小姓に一方的に使いを頼まれむっとするお七だったが、 男の子が泣いている様子を放ってはおけなかったため すぐさま救護室へと走った。 ーーーその後、充分に手を冷やした後で包帯を巻いた男の子は、 彼を探していた母親に連れられて自分の避難場所へと戻って行った。 「…良かったわ…!」 ほっとしてお七が胸を撫で下ろすと、 その横で突然小姓がお七の腕を掴んだ。 「きゃっ?!」 「…よく見たらお前もやけどしてるんじゃないか」 「え?」 お七がふと目を下すと、指先にほんの少しだけ焦げたような跡がついていた。 「お前も冷やしな」 「あっ…いいえ、これは違うの。 私の癖で、いつもかまどの火に指先を触れてしまうのよ」 「は?!なんだよそれ!」 小姓は目を見開いて叫んだ。 「…やっぱり、あなたも変だと思う?」 お七はしゅんとして俯いた。 「寺子屋でも、皆に馬鹿にされた。 ーーー私は火が好きなの。 いつも触れてみたい…って感じて、 ちょっとだけ火に触れてしまう。 その癖がやめられなくって… でも、それは変だって皆にーーー」 「別に、いいんじゃない?」 すると、驚くほどあっさりと小姓は言った。 「人と違う趣味がそんなにいけないことか?」 「…うーん…」 「俺だって、寺の小姓の中ではあぶれ者だけどさ。 俺は全く気にしてねえよ。 趣味がちょっと人と違っていることくらい、大した問題じゃないだろ。 まあ、火は危険なものだって今回の火事でお前も分かったことだろうし。 これからは気をつけな」 あっけらかんとした表情でそう言う小姓を見て、 お七は心がすっと楽になるのを感じた。 それと同時に、先程初めてこの小姓の顔を見た瞬間に感じた気持ちも戻ってきた。
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