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「あ…あなたの名前は?」
「急に何?」
「わっ、私だって名乗ったでしょ?!
私はお七。で、あなたは!?」
「…庄之助」
その小姓ーーー庄之助は、むっすりとした様子で答えた。
「そう。庄之助、ありがとう」
「礼なんて言われることはしてねえよ。
むしろ俺の方が…あいつの手当てを手伝ってもらって、
まあ、その。感謝していないこともない」
「あなたって素直じゃないのねえ」
「うるさい!
それより、お前俺より1つ2つは年下に見えるけど。
なに気安く呼び捨てにしてるんだよ」
「なら、庄さん。
私から見たらあなたの方が年下に見えるけれど…まあいいわ。
どちらにしても、私より子どもっぽい性格をしているのね」
「な…!」
庄之助はふいっと横を向くと、住職に呼ばれているからと言って去って行ってしまった。
そんな見え透いた口実を言ったところも大人らしくないなと微笑みながら、
お七は庄之助の背中を見つめ
「…庄さん…」
と繰り返し呟いた。
その後お七は両親と合流し、その晩は案内された寝床で一夜を明かした。
翌日から八兵衛は、焼野原となった江戸の町を再興する手伝いに駆り出され、
そして燃えてしまった自分の家の建て直しもと忙しくするようになった。
お七はお峰と共に寺の手伝いをし、火事で負傷した者の手当や
寺の掃除、避難民の食事の用意など、こちらもまた忙しく動き回っていた。
寺に避難した家庭はそれなりに多かったため、
男は町の再興に駆り出され、女は協力して寺の仕事をするという構図が出来上がった。
「この一枚で終わりね」
お七は、何枚も衣服が積まれているたらいに最後の一枚を積むと、
洗濯を終えた衣服を干す為に
よろよろと立ちあがった。
「ひゃっ!」
ずっとしゃがんで洗い物をしており足がしびれていたところに
大量の洗濯物が入ったたらいを持ったことでお七は体をよろめかせ、
そのまま尻餅をつく形で倒れ込んでしまった。
「はっはっは!」
「?!」
湿った洗濯物にまみれたお七が笑い声に反応して顔を上げると、
そこには自分を見下ろしている庄之助の姿があった。
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