93人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーー二人で協力して洗濯を終えた時、
既に陽は傾き始めていた。
「ありがとう。
一人でやっていたら、今頃とっぷりと陽が沈んでいた頃よ」
「感謝しろよ」
庄之助が素っ気なく返す傍ら、お七はふと空を見上げた。
「綺麗…」
「何が?夕日?」
「ええ。まるで火のように真っ赤な空…
吸い込まれそうなほど、綺麗」
「…ほんとに好きなんだね、火」
庄之助は洗濯物を干しながらため息をついた。
「俺は火が怖いね。
下手したら死んでしまうんだから」
「でも、火は使い方次第ではとても便利なものよ」
「…お前は何も知らないからそんな呑気なことを言えるんだ」
「どういうこと?」
お七が眉をひそめると、庄之助はじっと町の方へ目を向けた。
「まだ、はっきりとはしていないけど…
この大火で既に3000人余りの遺体が見つかったそうだ。
皆、炎に焼かれて真っ黒焦げになっていたとよ」
庄之助は日中、住職と共に町で逃げ遅れた者達の誘導や
遺体の処理を手伝っていたのだという。
そこで目にした火事の後の惨状を、生々しいほどに語って聞かせた。
最初のコメントを投稿しよう!