93人が本棚に入れています
本棚に追加
「…私も江戸の町の復興活動を手伝いたいわ」
お七がぽつりと言った。
「は…?」
「私も、火によって家や生活を壊されてしまった人たちを助けたいの」
「お前…いや、そうか」
庄之助は少し迷った様子を見せたが、こくりと頷いた。
「わかった。それなら、明日の朝一番、裏門に来いよ。
俺と一緒に町へ降りて、復興作業をしよう」
ーーーその晩、家族が眠りにつこうとしている傍ら、
お七はそっとお峰に声を掛けた。
「かか様。あのね…。
明日は、町の復興作業を手伝ってくるわ」
すると、うとうとと話を聞いていたお峰の目が鋭く開かれた。
「…何言ってるの!
女子供は皆寺の清掃や食事の手伝いをしているでしょ。
あなたがそんな力仕事をする必要はないのよ?」
「でも、私も家を建て直す仕事を手伝いたいの」
「そういう仕事は、力のある男衆に任せればいいの。
適材適所、私たちは寺の手伝いをすることを求められているのよ」
「…でも」
お七が反論しかけると、お峰は彼女の腕をぐっと掴んだ。
「かか様…痛い」
「まさか、あの寺小姓にそそのかされたんじゃないでしょうね?」
「え…?」
「駄目よ、あんな素性の知れない男は。
産まれた時から寺に捨てられた、身分の分からぬ男じゃない。
あなたは、江戸で評判の八百屋八兵衛の娘。
来る時が来れば、ちゃんとした縁談を組ませてあげるから…ね?」
「ちょ、ちょっと待って。
かか様は何か思い違いをしているのでは?
確かに庄さんとは話したけど、私はあくまで江戸の町を…」
お七はお峰の剣幕に驚きながらも、何とか言葉を返した。
そして、とある疑問に行き着いた。
「…そういえばかか様!
どうしてかか様が、庄さんが捨て子だという事情を知っているの?」
「それは…」
「ねえ、かか様」
「おい、なんだうるさいぞ」
お七とお峰が言い争っていると、近くで眠る一家から苦情の声が上がった。
「もう皆寝始めている刻だ。親子喧嘩なら外でやんな」
「すみません」
お峰は即座に謝り、そして小声でお七に言った。
「とにかく…町へ降りるのは駄目。
あなたは明日私と一緒に炊事場の手伝いをなさい」
「…分かった…」
お七は、ここで反抗したり追求したりしたところで
お峰が収まらないのは分かっていた為
大人しく従うふりをした。
そして、まだ日が昇らぬうちからそっとしとねを抜け出し、
庄之助と約束をした裏門へと向かうのだった。
最初のコメントを投稿しよう!