阿部対馬

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「え…時間って?」 「追っ手がこちらへ近づいてくる音がする。 ーーー対馬、君はこれからどうする?」 「え?どうするって…」 対馬が周りを見渡すと、対馬以外の皆が彼に視線を向けていた。 「対馬」 戸惑う対馬に対し、芭蕉が穏やかな声で言った。 「お主は綱村殿とここへ残るか? ーーーそれとも、私達と再び共に旅をするか?」 「君がもし旅を続けたいなら、 綱村様のことは僕が匿うよ。 …僕を信用してくれるならの話だけど」 隼人が芭蕉に続けて言った。 「もし自分で綱村様を護りたいのなら、仙台に残って 黒脛巾組と対峙してもいいかもしれないね」 「芭蕉さん達は…これからどこへ?」 「私達はこれからも気ままに旅を続けるだけさ」 芭蕉は曾良のいるこの場でそう答えたが、 彼の瞳はそう考えてはいないことが明らかであった。 「なあ、芭蕉さん…。 二人だけで、ちょっと話せないか」 「手短にな」 対馬は曾良たちから離れた場所へ芭蕉を連れ出した。 「…本当はどうするつもり?」 「…旅を続けることは嘘ではない」 「まさか討幕派と全面対決するってことは考えてないよな?」 「…そうなったとすれば、私だけでは手に負えなくなる。 だが、将軍様を暗殺する話まで具体的に出ているのだとすれば、 私の里は総力を挙げてそれを阻止するに違いない。 そうなれば私もーーー」 「なら俺も行くよ!!」 対馬は思わず声を大きくして言った。 「俺も芭蕉さん達と一緒に戦うよ! どうせここへ残っていても、俺一人じゃ黒脛巾組は倒せない。 民も村宗たち討幕派に味方しているーーー。 このままここへ残るより、芭蕉さんの仲間と一緒に戦いたい!」 「本気で思っているのか? それに仙台にお主の義父を残していくことになるのだぞ?」 「隼人が匿ってくれると言った! ーーーあいつのことは、敵だけど信用できる… よくわからないけど、確信がある。 だから、芭蕉さん。 …もう一度、俺を仲間にしてくれないか…?」 対馬が頭を下げると、芭蕉はふうとため息をついた。 「何か勘違いをしているようだが、 もう一度も何も、私はお主のことをずっと仲間だと思っている」 「!芭蕉さん…!」 「行くぞ」 芭蕉と対馬は皆の方へ振り返り、そして対馬は綱村の元へ歩み寄った。
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