阿部対馬

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「綱村様…俺、この人たちと旅を続けたい」 対馬は綱村のそばで跪き、頭を下げた。 「綱村様を一番に護りたい気持ちは変わりません。 けれど…俺には、もっとやらなければならないことが見つかりました。 仙台だけじゃなく、もっと多くのーーー」 「私のことはよい」 綱村は対馬を手で制すと、にこりと微笑んだ。 「立派に育ったなあ…助三郎…」 綱村は弱った体をさらに起き上がらせると、 対馬の両肩に手を置いた。 「私のことは気にするな。 自分のことは、自分でどうにかするゆえ。 お主はお主がしたいようにしなさい」 「綱村様…」 「お主は伊達の為の忍ではなく、お主が思う正義の為に生きればよいのだ。 お主は黒脛巾組である以前に、私の息子なのだからな」 「…ありがとうございます」 対馬は震えた声で呟くように言うと、静かに立ち上がった。 「…芭蕉さん、曾良」 「ああ」 芭蕉は対馬の肩をそっと抱くと、既に出発の準備をしている曾良の元へ連れて行った。 曾良もコクリと頷いてみせ、三人は振り返って隼人と綱村を見た。 隼人は、声には出さなかったが 綱村のことは任せておけと言わんばかりに目で伝えてきた。 綱村は、旅立つ三人を微笑みながら見送り、 そのままほっとしたように気を失ってしまった。 「ーーー本当に、よかったのだな?」 しばらく歩き、綱村の姿もすっかり見えなくなったところで芭蕉が尋ねた。 「…」 対馬は何も言わず、ただ頷いて見せた。 「しかし、唯の旅人である僕たちがあんな真似事するなんて、 まさかこのような日が来るとは思わなかったなあ!」 曾良はうんと伸びをして見せ、元気のない様子の対馬の肩を叩いた。 「もう父親が恋しくなったか?」 「ち…違う!俺はただーーー」 これからどうすればよいのかーーー ただ仙台にいるより、真の意味での「正義」を通す為 芭蕉さんと曾良の旅に再び着いて行くことを決めたけれど… 俺がこれから先も二人の足を引っ張ってしまうかもしれないし、 それにこの二人は、互いに自分の身分を偽り旅を続けている 脆い関係性の上に成り立っている。 いつか芭蕉さんが討幕派志士と全面対決をすることになったら、 その時は芭蕉さんと曾良は互いの身分を明かすのだろうか?
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