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◇
「ねっきーお疲れ。ヨダレ垂れてる。」
「へっ?!あ…えへへ。お疲れさまです、渋谷さん。」
「なんとかしろ、そのニヤケ顔。」
ふに~っと片頬を摘まれても、緩んだ顔は元に戻らない。
「気持ち悪いわ、いい加減。」
何とでも言ってくださいよ、渋谷さん。
あれから、鎌田さんの過保護ぶりはランクアップして「お前、ほんと危なっかしいから、俺の家に住め」って…。
私は逆らえず、鎌田さんのお家にお世話になっております。
「鎌田さん毎日甘えるんですよね…『膝枕』とかって言って!」
「うるさい、ねっきー。」
渋谷さんに反対の頬も掴まれても、ほらね?幸せ過ぎて痛く…痛い!
「ひはひっ!ひはひ~!」
楽しそうに笑う渋谷さんの後ろに出来た人影。
「おい、何してんだ」
「あ、樹だ!」
ヤベって顔して…渋谷さん、逃げた!
酷い!私だけを残して…
「美希…」
「は、はい!」
耳に鎌田さんの唇が触れた。
「今夜空けとけ。」
今夜?
今日…入ってたかな?クライアントやお得意様との会食。
首を傾げたら、ニヤリと笑う鎌田さん。
「恭介に触れられたんだぜ。ただで済むと思うなよ。」
…ああ、心拍数が上がる。
「あ~あ…今日も野獣のエジキだねえ。」
「し、渋谷さん!いつの間に戻って…。」
「ま、末永くお幸せにね。」
私に可愛い笑顔を向けると、自分の荷物を段ボールに詰める渋谷さん。
「渋谷さん…そう言えば三課に異動でしたね。」
「そっ。お世話になりました。」
何だか、寂しいな…渋谷さんには沢山助けて頂いていたのに。
書類を取って帰って来た鎌田さんの掌が頭に乗っかった。
「まあ、さ。寂しいのはわかるけど。あいつの事、応援してやろうぜ。」
応援…?
何の事か分からなくて見た鎌田さんの横顔は、渋谷さんにいつになく優しい眼差しを送っていた。
“応援”と“眼差し”の理由があの木元さんにあると言う事を知るのは…もう少し先のお話で。
「とにかく、お前は今晩な。」
「は、はい…。」
私は今日も、鎌田さんにどうしようもなく恋をしています。
ー野獣に恋するヘタレちゃん、fin.ー
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