名前も知らないままで

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   今から会いに行こうとしている彼女とは、恋人でも友達という間柄でもない。 ただの偶然が重なった、顔見知り。 俺が通ってる大学の近くにある本屋で彼女は働いていて、大体決まった曜日と時間にその本屋に立ち寄る俺は、その時間にレジを担当する彼女の接客を受けていた。 それが数回重なれば、自然とお互い顔を覚えるわけで。 気の利く彼女は、俺がよく買う作家の新刊が出る日を、レジの合間に知らせてくれた。 それをきっかけに、レジの合間に軽く一言、二言、話すだけの仲になった。 そんな、ささやかすぎるひと時が、いつの頃だか心地よくなった。 名前を聞いたり、連絡先聞いたりして、もっと仲良くなろうとすれば良かったのかもしれないけれど……俺としては、このささやかな時間だけで、十分満足してたんだ。 けれど、そんな日は長く続かなくて……。 1週間前。 風邪引いて体調を崩した俺は、3日間家で引きこもる事になってしまった。 回復した後、いつも通り本屋へ立ち寄ったけれど……レジに彼女の姿はなかった。 気にはなったけど、名前も知らないし、たまたま今日はこの時間じゃないのかもしれないと思うと、別の店員に聞く事も出来なかった。
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